英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2013年四大学英語劇大会(1)

埼玉県志木市パルシティで毎年行なわれる"四大学英語劇大会"、今年も拝見してまいりました。初日に四作品、一気に観劇! まず、慶應大学の皆さまによる『In My Mind's Eye』。次に、一橋&津田塾大学の皆さまによる『Boeing Boeing』。

Boeing Boeing

Boeing Boeing


(『In My Mind's Eye』の台本はSamuel Frenchのこちらでどうぞ:http://www.samuelfrench.com/p/5635/in-my-minds-eye
『In My Mind's Eye』は"私の心の目"というタイトルから想像できるとおり、視力のほとんどを失なっている主人公の物語。ところがこれ、ヒロインは二人なんですね・・・? 13歳のパティと26歳のトリシュ。同じ境遇の二人の姿をある時は交互に、またある時は重ね合わせて描くことでふくらみを持たせた作品です。演出面では、母親の愛情に押しつぶされそうな13歳のパティと、過去の束縛から抜け出そうと立ち上がる26歳のトリシュを通して「人物アーク」(character arc=物語を通して人物が見せる大きな成長、変化)を見せることがポイントになりそうです。

 

ところで昨年、「演者さんの実年齢とかけ離れた設定の人物を選ぶのもいいが、大学生の時にこそ演じられる人物像を演じてもいいのでは」というようなことを書かせて頂きましたが・・・

★昨年の記事はこちら。
2012年度 四大学英語劇大会を拝見しました(1)

eigogeki.hatenablog.com


2012年度 四大学英語劇大会を拝見しました(2)

eigogeki.hatenablog.co

昨年も今年も、全体的な傾向として、実年齢よりはるかに年上のキャラクターを演じた皆さま、とてもお上手なんですね。難しいのは、むしろ"自分の年齢より下のキャラクター"、つまり、舞台で"子供"を演じる時なのかも。
老人を演じることを想像すれば、自然に力が抜けますよね。若者を演じる時ほど、りきまなくていい。その本質がすでに、リアリティある演技に近づきやすい土壌を持っているのかもしれません。
だけど、子供を演じることを想像すれば、"元気""声が高い""かわいい"といった特徴がまっさきに思い浮かぶでしょう。すると、どうしても力を入れてしまいがち。"子供を演じること"に意識が向いてしまって、相手役とのコミュニケーションが取れなくなる。一生懸命"子供らしく見えますように"と念じながらセリフを言って、理由もなく両手を振り回してしまったり・・・けど、本物の子供を観察してみると、意外と手を振り回さないんですね。うーん、これは注意してかからねばならない問題です。そんな背景もあるのか、昨年の大会ではちらほら見られた子供キャラも、今年は『In My Mind's Eye』のパティのみ。でも13歳だからね。学年でいうと、中一から中二です。

演者の実年齢に近い感覚で、という点では『Boeing Boeing』がぴったりハマっていました。航空会社の女性客室乗務員、三人とかわるがわる恋愛を楽しんでいる女たらしとその友人のコメディで、なんとオリジナルは1960年にフランスで発表されたもの。いまだに笑えて、現代的な感覚で上演できるのも、「色っぽいコ、気が強いコ、やさしいコ、どのコもいいんだよなぁ~」と思う男心の普遍性ゆえでしょうか。今回、ひとつだプロダクションの皆さまの上演を拝見して、私も何度も笑わせて頂きました。客席全体、ウケてましたね~。


この演目が秀逸なのは、

1)"今、目の前で緊急の一大事が繰り広げられる"お話であること。
俳優術や脚本術の用語でいう「urgency(緊急性)」が明確に存在しています。カノジョたちが鉢合わせしそうだ。どうしよう! 人物たちが繰り広げるドタバタの慌てぶりに、観客も思わずのめり込みます。
2)人物の"ゴール"が明確に存在すること。
メインキャラクターの男のうち一人は、二股ならぬ"三股"をかけており、"三人のカノジョたちにバレずに、このおいしい生活をキープしたい"というなんとも原始的で正直(?)なゴールを持っています。この欲張りな生活に巻き込まれる友人キャラも"旧友の秘密を守り通すこと"をゴールに、必死に動きます。肉体で表現できるゴール設定にのっとってアクションを演じると、舞台でも映画でも、観客にストレートに伝わりやすいです。
3)視覚的な表現を使って効果が上げられる設定であること。
三人のカノジョたちをエアライン勤務に設定することで、衣裳(制服とバッグ)を効果的に使うことができます。赤のカノジョ、青のカノジョ、黄色のカノジョ・・・この色分けがコメディに必要なポップな雰囲気を醸し出すだけでなく、人物の個性を浮き彫りに。これ、三人ともグレーの制服だったら、誰が誰なんだか、わけがわからなくなるでしょう(笑)。あるいは主婦とOLと教師、なんて設定でも苦しいはず。色というのは、考えなくても目に飛び込んでくるパワーがあるのですね。


こうしたプラス要因があるため、英語があまりわからない日本の観客の方々にも、非常にわかりやすいプレゼンテーションができる演目です。今回の上演、英語のセリフ発音はもう少しクリアに前に出して頂きたかったなと思うところもありましたが、逆に言えば「何を言っているか聞き取れなくても、お話がちゃんとわかる」ように出来ている。日本国内で上演する英語劇としては、とてもいいと思います。


お話がちゃんとわかるのは、演目の成り立ちのおかげもありますが、出演者の皆さまの身体面の表現の的確さも大きく貢献しています。それだけでなく、大胆な身体接触もガバっとできちゃう学生俳優さんたちの熱演が爽快。私自身、18歳、19歳ぐらいの学生さんを指導していると「キスシーンがいやだ」「ハグができない」と抵抗されることがよくあるので・・・全国の学生俳優の皆さん、そこをいかに破るかですね。私情をスッパリ断ち切って、真摯に演技と向き合うことができれば大丈夫。俳優どうしの信頼関係、大事にしましょうね。


さてさて、残る二作品もクオリティは非常に高かったです。続きはまた明日。