英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2013年四大学英語劇大会(2)

昨日の続きです。早稲田大学の皆さまの上演は、異国に渡って真実の愛を見つける青年を描いた『Shmulnik's Waltz』(台本はSamuel Frenchのページ:http://p.tl/Zph2で)。立教大学の皆さまは、1692年マサチューセッツ州での魔女裁判を描いた『The Crucible』。

The Crucible (Penguin Classics)

The Crucible (Penguin Classics)


『The Crucible』は、和訳も出ています。
アーサー・ミラー〈2〉るつぼ (ハヤカワ演劇文庫 15)

アーサー・ミラー〈2〉るつぼ (ハヤカワ演劇文庫 15)


昨日書かせて頂いた二作品同様、とても楽しませて頂きました! どちらもハイレベルな演目ですが、鑑賞できてほんとによかった(嬉)。


まず、『Shmulnik's Waltz』。シュマルニックのワルツ、とタイトルが示すとおり、主人公はシュマルニックという青年。彼が客席に向けて語るモノローグから劇がスタートします。って文章で書くと簡単そうに聞こえるかもしれませんが、かなりの練習量とトレーニング、多くのリハーサルや(できれば)本番を乗り越えてこそ成し遂げられる大仕事。昨年も"第四の壁を破ってのモノローグ"(=客席に向けて一人で語る)は大変だと書かせて頂きました。私のところでのレッスンでも、一番時間と労力がかかるのがこれ。


目指すところは"リアリティがある語り"なんですが、そのリアリティに到達するまで長い道のりなんですよね。セリフを暗記して言うだけなら、誰だってできます。そのセリフを、人物の肉声として言えるかどうか。


この語りは嘘だな、芝居だな、というニオイがした瞬間、その作品全部がぶち壊しになります。オープニングにモノローグがあるってことは、オープニングでぶち壊しになる可能性があるということです。


だけど早稲田の主演男優さん、見事に演じきっておられました。わたくし、観客として自然に"この人物が好きだな、続きがどうなるのか見たいな"と思えました。好感が持てるキャラクター描写というのは、映画脚本術ではものすごく大事にされていることなのですが、舞台にもまた必要だなと気づかせて頂いた次第です(そうなんです、なんだかんだ言って私、ちゃんと気づいていませんでした)。また、こんなふうに主役を引き立てた作品づくりをしていける団体自体、オトナだな、成熟してるな~と思います。キャストの皆さん、全員よかったし(2年連続で出演されてる方もいて、嬉しかったです)、美術も衣裳もよかった。唯一惜しかったのは、客席から舞台袖のスタッフさんが丸見えだったことかな。思わず"隠れろ! 見えとるぞ!"って手を振りそうになりました。

 

と、ささいなクレームはさておき、この『Shmulnik's Waltz』から学べることを一点、挙げておきますね。先に私は"この人物が好きだな、続きがどうなるのか見たいな"と感じたと書かせて頂きました。これは、この戯曲に限ったことではなく、どの作品にも共通するチェックポイントです。


名作を背負って立つ主人公は、

1)致命的な短所や欠点があるが、自分でそれに気づいていない。あるいは、いわれのない不運や逆境に見舞われている。
2)だが、人より優れた能力があったり、人間性の中で善とされる特質を持っている。
3)そして、やむにやまれぬ理由や事情、あるいは自らの欲求に駆り立てられて舞台に登場する。


・・・というふうに設定されているはず(ね? シュマルニックにもばっちり当てはまっていませんか?)。主人公でなくても、誰かお気に入りの登場人物がいれば、ちょっと当てはめて考えてみて下さい。こうした条件に沿った人物を見ると、観客は魅力を感じたり、共感したり、興味を抱きます。だから、いい脚本を選ぶ=いい主人公が登場する=自動的にいい舞台になる、はずなんですけど、どっこい、なかなかそうはいかないのが実情ではないでしょうか。


俳優のお仕事は、人物のリアリティを追及して体現すること。「観客に好かれるように演じること」ではありません。脚本に書かれていることが充分に演技に反映できているか、観客目線で見ながら演技の方向性をリードしていくのは、演出のお仕事。だから、現在、舞台や映画の制作に取り組んでいらっしゃる皆さまも、しっかり演出面で俳優さんをサポートしてあげて下さいね。


ということで、お知らせです。俳優の演出術についての実践的参考書『監督のリーダーシップ術』(ジョン・バダム著、シカ・マッケンジー訳 フィルムアート社)が本日発売となりました。タイトルは「監督」となっていますが、舞台の演出家さんにもためになるテクニックがいっぱいです。特にパート3「シーン撮影の準備:監督のチェックリスト」では脚本の読み方、演技の構成のしかたを詳しく掲載。イェール大学で演劇を専攻、舞台俳優を目指していた著者バダム氏ならではの演技プラン作成法、私も訳しながら目からウロコの部分が多々ありました。俳優と演出の仕事の違いを知るために、俳優学生の皆さまもぜひご一読を。

監督のリーダーシップ術  5つのミステイクと5つの戦略

監督のリーダーシップ術 5つのミステイクと5つの戦略

と、ちゃっかり書籍の宣伝をさせて頂いたところで、明日に続きます!