英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2012年度四大学英語劇大会(2)

昨日鑑賞できなかった2作品を拝見。どちらも名作! まずは女性の成長と自立をコミカルに、スタイリッシュに描いた『Out of Sterno』を早稲田大学の皆さまで。

Out of Sterno

Out of Sterno


そして、美しい湖のほとりにある別荘でくり広げられる老夫婦と娘の葛藤を描くドラマ『On Golden Pond』を慶應大学の皆さまで。
On Golden Pond

On Golden Pond


どちらも主人公が見事にアーク(成長、変化)する素晴らしい戯曲です。『Out of Sterno』では場内に何度も笑いが、『On Golden Pond』のラストでは涙を拭う観客の姿が。本日はファイナル、審査結果も発表されるとあって、大きなホールが観覧客でいっぱいになっていました。

 


さあ、栄冠はどのプロダクションに輝くのでしょうか?

 

 

結果はともかく、来年の大会に向けていち早く動きたいですね(と、いつもながら気が早い私)。今年の大会で学んだことを糧にして頂いて、次回もぜひ素晴らしい作品を発表して頂きたいと思います!

 

ということで、本日感じたことのメモを書いてみますね。まず4団体の4作品、演じている方々の実年齢から遠い役にチャレンジされているのがおもしろいなと思いました。『On Golden Pond』なんて主人公は80歳ですし、『M. Butterfly』の主人公も60代。『Brighton Beach Memoirs』も思春期の子供か40代の親世代かで微妙な設定です。リアルな今の自分の年齢と同じキャラクターって、意外と演じにくいものなのでしょうか? 若いからこそ演じられるキャラクターも多いかと思いますので、探してみるのもいいかもしれません。

 

また『On Golden Pond』以外の3作品すべてに"breaking the fourth wall(第四の壁を破る)"、つまり人物が観客に向かって話しかける部分がありました。どの作品も、人物がストーリーテラーとして冒頭やエンディングに語るのですが、とても難しい。どんな俳優にとっても難しいので、私の夫などは「客に語るっていうテイストそのものが嫌いだから、俺はやらない」と言ったりするほどです(笑)
なぜかというと、この種の語りは難しい上に、内容がちゃんと響かないと観客を不必要に気まずい思いにさせる逆効果も。私だったらこのような演技をどう指導するかと考えたりしました。
観客に向けて語る技術だけでなく演技全体にも言えることがありますので、続きは次回に書かせて頂きますね。とりあえずのワンポイントアドバイスとしましては、

 

 


"自分で言ったことに自分で反応してはいけない"

 

 

 

客席に向けて語る時は特に、です。観客は「へぇ~そこがキミのうちなんだー」とか相槌を打つわけにいきませんから、ただ語りを聞くのみです。しかも、ほとんどの客はたぶん石のように無表情で座っているので、俳優としては非常~に語りづらいはずです。
しかし、だからといって自分で自分の言葉に喜んでみせたり、納得してみせたりすると、トークが自己完結してしまいます。物語の世界への架け橋になるはずのトークが、逆に壁を作ってしまう結果に。
客席への語りを含む作品を選ぶ場合は演出担当の方、ぜひ俳優さんをサポートしてあげて下さいね。俳優にとって一番(そして唯一)頼りなのは演出家さんなのです! 何を見てどうサポートするかのご提案は次回、書かせて頂きますね。

 

★11/27追記:2012年度のグランドプライズは早稲田大学の作品に。おめでとうございます。出演者の皆さまのスピーチや身体表現、また視覚&音響効果など全体的な演出も非常によかったと思います!
『Out of Sterno』はひとりの女性の成長を描いたストーリー。イプセンの『A Doll's House(人形の家)』を彷彿とさせます。
Sternoのドッティも人形の家のノラも家を美しく飾り、かわいい人形のように生きることを求められ、自分でもその価値観を受け入れている人物。なので、かわいく甲高い声で子供っぽく演じようとする人が多いかと思います(私も最初、何の疑問も持たずにそういうチョイスをしていました)。よし子供っぽく、と思って幼稚園児のように演じてしまうと"頭がおかしい女""幼稚な趣味の不思議ちゃん"に見えてしまい、戯曲が提起する問題点へのインパクトが半減しますから注意しましょう! 
書くのは簡単ですが演じるとなると、なんとも難しいのであります。そうした意味で、成人女性の方にはぜひチャレンジして頂きたい役柄です。