英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2014年度四大学英語劇大会(1)

去る11月23日、24日に行なわれた四大学英語劇大会。今年も大盛況のうちに終了、おめでとうございました&おつかれさまでした! 私は24日のファイナルを拝見。とてもよい作品ばかりでした。
まず、早稲田大学さまの『Eurydice』。これは好きです! よい戯曲をお選びになりました。

Eurydice

Eurydice


愛する女性Eurydice(英語ではユーリディシーと発音します)を連れ戻そうと黄泉の国へ行くオルフェウスの神話をもとにしたコメディドラマ。死後の世界とこの世の行き来を描く物語は数多いです。なぜ人は死後の世界のおはなしを描き続けるのか? それは、死者の視点に立って初めて気づけることがあるからかもしれません。当たり前だと思い込んでいることが、実は当たり前ではないんだ、と気づかせられる。たとえそれが小さなことでも、衝撃的ではっとさせられます。
私が舞台を「いいなぁ」としみじみ感じるとしたら、ひとつは"そこにないものを、あると信じられた瞬間"です。今年の早稲田さんの作品でもそれがあって非常によかったです。役者さんが靴下を脱ぎ、裸足になって一歩踏み出すのを見るとき、観客の心の目にも川が見える。ただそれだけで、心が震えるほど感動します。静かなエンディングもエレガントで素晴らしかった。
もう少しこの戯曲の魅力を引き出せるとしたら、セリフのかけあい部分の緩急。人の死という重い題材ではありますが、コメディの要素もたくさん入った作品ですから、特にゆっくり話す必要がない部分は自然に会話を進め、んっ、と間をあけるところを思い切ってあけると、さらによくなると思います。できることなら、もう一度拝見したいです。
今年、セリフのかけあいで卓越していたのは慶応大学さまの『Odd Couple(Female version)』。
The Odd Couple: Female Version, A Samual French Acting Edition

The Odd Couple: Female Version, A Samual French Acting Edition


ニール・サイモンによるコメディ。コメディは間延びしちゃうと笑えなくなるのですが、皆さまテンポはばっちりでした! キャストのかたがたのスピーチ能力の高さが生かせる作品選びをされていたと思います。既婚女性のおはなしを女子大生さんたちが演じるという点で、私なんかはちょっとドキッとしましたけど、途中からそんなことはすっかり忘れて笑わせて頂きました。おもしろかったです。メインはあくまでも"オンナの世界"であり、男性キャラクターが2名だけという作品ですが、男性キャストさんも頑張っておられましたね。かなり稽古を積まれたのではないでしょうか。個性がはっきりしたキャラクターたちですが、とてもよかったです。役者としては、"はっちゃける"チャンスですよね。全体的に、非のうちどころがなかったです。
今年も難しい戯曲にチャレンジされていたのは立教大学さまの『Proof』。
Proof: A Play

Proof: A Play


ピューリッツァー賞トニー賞を受賞した名作で、登場人物は男性2名と女性2名。私が行なっている個人レッスンでも自由課題としてキャサリンのモノローグを選ぶかたが時々いらっしゃるので、長く人気のある戯曲なんだなぁと思います。
家の前、というセットで会話中心に進行していく劇ですので、その分、表現が難しいですよね。役づくりが浅いと、人物がただ家の前でしゃべっているだけのおはなしにしか見えないかもしれないし。キャラクターの心を悩ませているものは何か、不安や恐れ、願望があるとしたらそれはどんなものか。青年と姉妹、それぞれに濃く、深く作る甲斐のある戯曲ですから、役に取り組まれたこと自体が糧になるのではないかと思います。
私はブロードウェイでこの劇を見たのですが、立教さまのセットの方が私は好きかも。背景に家があるだけ、というのは意外と殺風景になりがちですが、立教さまのセットにはキャラクターを見守るあたたかい空気が感じられて、よかったです。
映像の視覚効果や音楽、セットの面で大胆なチャレンジをされていたのがひとつだプロダクションさまの『The Butterfly Effect』。
Butterfly Effect, the [DVD]

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これはたぶん、映画をもとに舞台化されたものかな。主人公Evanの子供時代や青年時代を織り交ぜ、複雑なストーリーをステージでうまく見せていらっしゃったと思います。特に映像と音を使った迫力のあるオープニングには、客席からも「すごい」との声が。可動式の家具を移動させての頻繁なセットチェンジも、皆さまでかなり練習されたことと思います。
私も、暗転や場面の切り替わりが多い劇を上演したことがあります。私ごとになりますが、そのときに感じたのは"観客に及ぼす影響は結構大きいなぁ"ということ。舞台の照明が暗くなるたびに、観客は「あ、終わったんだ」と思って拍手して下さったりする。でもまだおはなしは続いているわけで、照明をまた点灯したら「あ、まだあるんだ」といずまいを正しておられる空気を感じ・・・申し訳なかったです。
暗転や場面転換が悪いというわけではありませんが、暗転のたびに観客はいったん物語を思考の中で本能的に終わらせますし、場面転換のたびに思考を再起動して切り替えようとします。そのぶん、キャラクターへの感情移入をする余裕はどうしても少なくなりそう、と言えるかも(映画の編集においても、同じことが言われます)。今後も新たな試みを取り入れつつ、観客の心に響く作品づくりをされますことを期待しています。

四大学さま、今年もすべてクオリティの高い発表をされていらっしゃいました。ハイレベルの戦いを制するのは大変そうですが、勝ち負けや評価はそのときだけのもの。舞台に取り組み、"役を生きる"演技をめざして役柄に取り組んで頂くだけで、今まで考えたこともなかったこと、なんとなく思っていたけれど表現したことがなかったこと、いろいろなことが見えてくると思います。その体験を通して成長し、視野を広げて頂くことができれば、それが一番、意味のあることだと思います。そして、私たち観客にとっては一日で四つも素晴らしいお芝居を観ることができる幸せが。来年も楽しみにしています!