英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2016年度四大学英語劇大会(2)

役づくりはミルフィーユのように、丁寧に細かく層を重ねることが必要。実はそれだけでは演劇は成り立ちません。ぞんぶんに楽しむためには、お客さまである観客側にもミルフィーユが必要なのです(!)『I Hate Hamlet』はそれを強く感じる戯曲。今年の慶応大学さまの演目です。

I Hate Hamlet

I Hate Hamlet

主人公アンドリューはテレビドラマの売れっ子俳優。彼は引っ越し先で名優ジョン・バリモアの幽霊に遭遇します......と、ここまで書いただけで、舞台や映画関係者の人口が多いニューヨークやロサンゼルスでは確実に「ニヤリ」と笑いが起きるでしょう。あとは、観客の中にあるミルフィーユの層に合うものを提示するだけで、かなりの笑いが引き出せる。
その層とは、たとえば「テレビの俳優は顔がいいし、画面にちゃんと収まるために大きな動きはしないよね!」とか「ニューヨークの芸能エージェントってこんな感じだよね!」という業界内の暗黙の了解。また「ジョン・バリモアハムレットって身の毛もよだつほど凄かったらしいけど、一体どんなだったの?」とか「やっぱバリモアって酒、飲むんだ!」という"名優・バリモア伝説"に対する好奇心。そうしたものが観客側にあるのとないのとでは、上演した時の感覚がまったく異なるはず。もちろん、演じる側に意識が必要であることは言うまでもありません。

 

ジョン・バリモア氏は1882年生まれ、1942年没。『魂の演技レッスン22』や『役を生きる演技レッスン』(拙訳、フィルムアート社)でもその名演技が言及されていますが、サイレント映画時代に活躍した人ですから、アメリカの演劇学生でも今は知らない人が多いかもしれません。

ジョン・バリモアの『ハムレット』は「Vengeance!(復讐!)」と叫ぶ声が印象的だといわれます。しかし、それより強烈なのは、王のマントを真っ二つに引き裂くという「アクション」の音。

(『役を生きる演技レッスン』より)

“役を生きる”演技レッスン ──リスペクト・フォー・アクティング

“役を生きる”演技レッスン ──リスペクト・フォー・アクティング


この映像をご覧になってみてください。『ジキル博士とハイド氏』(1920)です。1分22秒目あたりから恐ろしい迫力です。バリモア氏は基本的に、顔面と全身の筋肉の動きだけで悪人ハイド氏に変身しちゃうのです↓

CGやVFX、特殊メイクが花盛りの今、「えっ、演技だけで?」って感じですよね。こんな激しい演技を今のテレビや映画でやると大笑いされるかもしれません。

だけど、世間一般の"普通"を超えて、強烈なものを表現しようと突っ走るのが役者です。周囲の人々は、そんな役者魂が怖い。怖いけど見てみたい。その好奇心は、幽霊が見てみたい気持ちとも似ています。『I Hate Hamlet』には"役者の中の役者"が"幽霊"になって出てきますから、怖いもの見たさがダブルで楽しめる劇ですね。私自身とても好きな作品ですので、今年拝見できたのはとても嬉しかったです。慶応大学の皆さま、ありがとうございました!

 

さて、このブログをお読み頂いている方の中には、これから英語劇に挑戦されたり、現在お稽古中の方もたくさんいらっしゃると思います。

英語のセリフ発音で大変なことの一つは"単語の終わりの子音"。弱すぎると単語が不完全になって伝わりませんし、「t」や「s」を強く出し過ぎるとそこばかり目立ってしまいます(泣)。

「語尾の子音が強すぎる」と言われたら、その音をどれぐらいの大きさで出すかより、単語のアクセントの部分がしっかり強調できているか確認してみましょう。

英語のセリフのどこで感情表現するかと言われたら、アクセントがあるところの母音なんですよね。たとえば喜んで「An apple!」と言う時、嬉しそうな表情や音になる瞬間はたいてい、アップルのアのところです。
セリフの感情表現をアクセントの母音のところでしっかりすれば、語尾の子音は自然なボリュームに落ち着くはずです。全体的にも、かなり伝わりやすいスピーチになりますよ。試してみてください。