英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2016年度四大学英語劇大会(3)

日本で英語劇を上演する際、まずは演目選びが重要です。海外の戯曲は異文化で創作されたもの。演じる側と見る側、どちらにとっても基本的に異文化で、どう架け橋をかけるかが難しい。このことは、前にも書かせて頂いたとおりです。

 


テネシー・ウィリアムズ作品ならアメリカ南部、二ール・サイモンならニューヨークの雰囲気を肌で感じ、人々のやりとりの特徴やニュアンスを深いところでつかむことが必要になるでしょう。私は「絶対にそうしなきゃだめ」と断言する立場にはありませんが、演じる人間として、現地の息吹を肌で感じた体験がないと、どう演じていいのかわからず立ち往生するに違いありません。


だから、そうした"現地性"や"時代設定"のカラーができるだけ少ないもの――おとぎ話のようなファンタジー物や不条理劇などは演出にも自由度があってやりやすいです。あとは、意外かもしれませんが、シェイクスピア劇。セリフそのものにリズムやパワー、美がありますから、現代の衣装やセットで上演しても成立しちゃう。


マイケル・フレインという劇作家の作品もいいですね。設定がガチガチに限定されておらず、笑いのセンスも普遍的です。一橋&津田塾大学のひとつだプロダクションの皆さまは今年の演目『Noises Off』で見事GPを獲得されました。おめでとうございます!


この作品、舞台劇を演じる役者たちと演出家らの騒動を描いています。面白いのは、中盤でセットが180度反転して舞台裏を見せる構成。ひとつだ様の上演では、観客の目の前でセットを回転させておられて、一瞬私も連れも「あれ、パルシティのホールって床が回るようになってたっけ?」と驚きました。回っていたのは立て込んだセットの方だったんですね、車輪が付いていました。5年間、四大英語劇を拝見してきて、このような転換は初めてです。面白かった!


この戯曲に限らず、マイケル・フレインの作品って、舞台を前後や左右に分割してアクションを同時進行させるものがあって面白いんです。『Noises Off』の第二幕も二段に分かれています(画像)。

 

 

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ぱっと見たところ、複雑そうですよね。でも、動きながら稽古してみると非常に楽しいです。


Noises Off (Modern Plays)

Noises Off (Modern Plays)


短編の劇を集めた本も出ています↓私は長年、各地でのワークショップやクラスでご紹介しているのでご存知のかたも多いかも。また『Listen to This』という短編集に収録の劇は一つひとつが短いので練習用としてもお勧めです。

 

Alarms and Excursions

Alarms and Excursions

 


役者にとって、舞台で何をしていいかが明確にわかっていることが自信につながります。ホームドラマ的な会話劇って、実は一番難しい。人物どうしがただしゃべる場面が長いと、よほどはっきり会話の内容が伝わるようにしないと、物語上、何が起きているのかわかりづらくなってしまいます。『Noises Off』のような作品は、各キャラクターが何をするために舞台に登場し、何をするために退場するかが明確に読みとれる。だから役者も自信をもって動けるし、観客も出来事を瞬時に理解できる。だから物語がちゃんと追えるし笑いも起きます。


その"明確さ"が、今年のひとつだプロダクション様の作品を素晴らしいものにしていたと思います。舞台上でキャストの皆さまの瞳が輝いていたのがとても印象的でした。出演者の皆さま、スタッフの皆さま、ご熱演ありがとうございました! 


今年も素晴らしい舞台を披露してくださいました四大学の皆さまに改めて、深く御礼申し上げます。また来年も、楽しみにしていますね!