英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

原作小説がある場合の役づくり

小説の映画化や舞台化はとても多いです。オーディションで、そうした作品が課題になったときは大変。短時間で原作小説を読み、内容をつかまなくてはなりません。私が外部の演技指導に伺うときも同じです。たった1日か2日間で長編小説を読み、脚本を読む。役づくりに必要な情報を書き出すと、ノートがメモでいっぱいになります。
俳優の役づくりのプロセスは、小説家がキャラクター設定をする作業とそっくりだなぁと思って翻訳させて頂いたのが『Outlining Your Novel』(アウトラインから書く小説再入門/K.M.ワイランド著、フィルムアート社)。おかげさまで続編も翻訳出版させて頂けるほどご好評を頂いています。英語をそのままカタカナ化するしかなかった用語も多く、読みやすい本ではないかもなぁと不安でしたが、多くのかたが実践で使って下さっているようで嬉しいです。

アウトラインから書く小説再入門  なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?

アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?


あくまでも、内容は"小説を書くハウツー"ですから、書店さまでは演劇コーナーではなく"小説技巧"や"創作"といったコーナーに置いて頂いていますが、俳優のかたにも使って頂けるかも。脚本のもとになっている小説を書いた人は何を考えていたのだろう、という目線に立って頂けると思います。
すぐに使える部分は第7章の「人物インタビュー 質問リスト」。次のような項目が挙がっています:

 

  • 名前
  • 人物はその名前が好きか?
  • その名前は人物にとってどんな意味を持つ?

 

あ、考えずに演じてた! とぴくっとされたかたもいらっしゃるかもしれませんね。だいじょうぶ、でも名前が表すことと自己イメージとの関係だけでも結構ヒントが得られそうです。自分の古風な名前がいやだとか、いかつい名前が自分に似合っていなくて恥ずかしいとか。逆に、自分がこうありたいというイメージにぴったりの名前が大好きだとか。役づくりとは"私は誰なのか、何者なのか"を探る作業ですから、名前ひとつ見てもたくさんのことが思い浮かび、発想が広がります。
また、質問リストには、

 

  • どれぐらい自制心があるか
  • 何に怒りを感じるか
  • 泣くとしたら何に対して泣くか

 

自制心がゆるいキャラクターは奔放に動き、自分を厳しくコントロールしがちなキャラクターは動く前にためらったり、考えたりするでしょう。でも、怒りや悲しみを感じるものに対しては、反射的に行動するかもしれません。俳優は小説家と異なり、設定したことを自分自身の身体や声を使って表現しなくてはなりませんが、リストの項目を基点に動きかたまで考えることができそうです。原作小説がある場合はもちろん、自分勝手に創作するのではなく、原作で描かれる世界に自分を近づけて。それもまた、面白い作業だと思います。
小説を書くとき、キャラクターを思い描き、心の中で声を聞き、リアルな存在感が出せるように細かい部分まで設定する作家さんはとても多いです。設定したことすべてが文章に書かれるわけではありませんが、優れた作品は水面下でかなり細かく作りこまれているもの。はじめから舞台化、映画化、TVドラマ化も視野に入れて書かれる小説も多いです。俳優を目指す側も足並みを合わせ、よきパートナーのような存在になりたいですね。