英語劇ドットコム

シカ・マッケンジーによる英語劇・英語演技についてのブログ

2013年四大学英語劇大会(3)

更新遅くなりました。2013年度の四大学英語劇大会、立教大学の皆さまによる『The Crucible』の感想です。昨年のファミリードラマから一転、すごい作品に挑まれました。本当に・・・一日に四作品すべてを見るのはしんどいかなぁと思っていましたが、初日の最後はこの作品と知れば拝見せずにはいられませんでした。


1953年、アーサー・ミラー作。劇の内容は"魔女裁判"。1962年にマサチューセッツ州セイラムで起きた一連の裁判事件を描く戯曲で、アーサー・ミラーはこれを通して赤狩りマッカーシズムを批判したとされるのですが、もう、ガツンとくるというか、考えさせられるというか。


いろんな人物たちが絡み合い、紆余曲折を経て避けがたい結末へとなだれ込んでいくのですが、とりあえず三人の人物に注目です。


1)私利私欲、本能や肉欲を優先させてオカルトに走り、周囲の人々までをも巻き込む女、"アビゲイル"。


2)基本的には本能や肉欲をコントロールして社会生活を営めるが、過去にちょっと魔がさしちゃってアビゲイルと浮気をしてしまった男、"プロクター"。


3)信仰や理想、理性に従い、最後には夫のあやまちを許す女、"エリザベス"。

 

人間、誰しもいろいろな側面があるはずです。三人のうちのどれがあなたに近いですか、と尋ねたら「俺はたぶん2かも」「私は絶対3だわ」というような答えが返ってくるかもしれません。だけど本当は1と2と3の間で、すごく危ういバランスをとりながら常に揺れ動いているのかもしれません。その危うさをギリギリのところまで(生きるか死ぬかの瀬戸際まで、ということです)突いてくるのが、名作たる所以かも。


今年の立教大学の皆さまのパフォーマンスは、とてもよかったです。すべてのキャストさんの間でのコミュニケーションもしっかり成立しており、とても安定感がありました。一点だけ、気になったのは"ドアを開け閉めするのをパントマイムで行なう"演技。これ、どうしても必要なのかな? 


今年は、セットに複数のドアをリアルに設置することがキーにもなっている戯曲を上演されたひとつだプロダクションさん以外、すべての団体でこの"ドア開けパントマイム"が見られました。そして、それが表現上、効果的に機能していたのは、照明を使って架空の場を作った早稲田さんのみだと思います。ドア枠はセットで作ってあるのに、開け閉めする動きが手振りだけというのは・・・どうなんでしょう? 絶対にそれが効果的だからというよりは「だってドアがあるんだもん」という理由のみだったのでは? 

 

さて、アーサー・ミラーの戯曲では他に『セールスマンの死』や『みんな我が子』が有名です。どれも登場人物どうしがしっかり絡み合い、時に息苦しくなるほどの展開。悲劇的な結末へと突き進んでいきます。"就職して結婚して家族を持って、必死で働いてきたけどこれでいいのか"といった普遍的な問いを突きつけられるので、何度か本を読んだり上演を見たりしているうちに、自分もアーサー・ミラーの戯曲の中で生きてるんじゃないかと思えてくるほど。それほど、サイズが大きな劇だということですね。


ん? サイズ? ご興味を持って頂けた方はステラ・アドラー著『魂の演技レッスン22』(拙訳、フィルムアート社)を。演劇のパワーと意味、崇高さに触れて頂けることとと思います。

魂の演技レッスン22 〜輝く俳優になりなさい!

魂の演技レッスン22 〜輝く俳優になりなさい!

また、演出術についてもう一冊、『演出についての覚え書き』(拙訳、フィルムアート社)もお勧め。一つひとつのポイントが簡潔に書かれていて、休憩時間や寝る前などに、気軽に拾い読みしながら英気が養えます。

演出についての覚え書き 舞台に生命を吹き込むために

演出についての覚え書き 舞台に生命を吹き込むために


最後に、素晴らしい大会を見せて下さった参加者、ご関係者の皆さま、おつかれさまでした&ありがとうざいました! 10年後、20年後、30年後、あるいはもっと後で気づくこと、役柄や作品について新たに見えてくることもあるでしょう。だからね、大会が終わっても燃え尽きないでほしいです。次に演じる時は、もっとこうしよう、新たに気づいたことをやってみよう、と常に思っていて頂きたいし、また、優れた俳優さんはけっして燃え尽きず、心の中は冷静に明日を見据えていらっしゃるはずだと思います。


特に『The Crucible』のプロクター夫妻や『In My Mind's Eye』のローラといった演じがいのある役を見ると、年を経てからもう一度、演じてみて頂きたいなと切に思ったりします。卒業10年後、20年後のOB、OGさんの特別公演があってもいいですよね。見たいな。いかがでしょうか。